11年目の左手さん・・

 

yukioが倒れた あの日から、

11年経つ。

もう、11年・・、まだ、11年・・どっちなのだろう。

夏が終わったという声を聴き、

吹き込む風の間に、少しの冷たさを感じると

11年前の、あの朝の痛みの光景が、

まあちゃの全ての五感を走り抜けていくのですね。

 

言葉を奪われてしまった yukioは、

自らの意思を絵によって、伝え始めたので、

その絵をHPに載せたら

「左手さん」と愛称を貰って。

そうそう、「左手さん」と、名づけてくれたのは、

「としぼうさん」だった。

HPで、多くの方から「上手ねえ、凄いねえ」と言われて

嬉しくて、嬉しくて、

毎日毎日毎日、絵を描いて、

会社に行っても休み時間絵を描いて、

そのうち

絵の本が何冊も増えていってしまった。

本屋へ行くと必ず絵の本と碁の本買う。

「これ」・・そう言って、ニコニコ本を差し出す。

「自分で買ってね」とまあちゃは言う。

お財布から5000円札を出して渡すと、

おつりは、硬貨が数枚。

そう、絵の本は、チョットした本でも高いのよね。

でも、お酒を飲むわけじゃないし、タバコも吸わないし、

だから、

欲しいというものは、本に限らず、全て買うのです。

同じような本を買うときもあって・・

「この本あるでしょ」

「うん」

「欲しいの? 読めるの?」

「読める」・・・とオエム返しの言葉が返ってくる。

読めるわけないのにな・・・そう思いながら

まあちゃは、yukioにお金を渡す・・・その繰り返し。

 

もう、いったい何十冊あるのだろう。

だから・・・・・・。

この間、言ってはいけない言葉を

まあちゃはyukioに言ってしまった。

「これ、読んで」とyukioが珍しくはっきりと言った

だから、まあちゃは

「読めると言ったでしょ、読めると言ったから、買ったのに〜」

【シマッタ】

と想ったけれど・・口から零した言葉は、

もう元へ戻せない。

「あっごめん、言い過ぎたごめんね」

でも、yukioは、怒りもせずに、

二人の間に広げた本に目を落としたまま、

「でも、ここ、わからない」

そんなふうなことを言う。

だから、返って、まあちゃは切なくなってしまって・・・

「亭主に向かってなんてことを言う」

なんて大声で怒鳴ってくれたほうが、

どんなにスッキリするだろう。

11年も経つと、まあちゃも自分の感情を抑えることが

できないこともしばしばなのです。

今、yukioは、絵は ゆっくり 描いてく そう言ってます。

なんか、研究しているのだそうです。

字は読めないけれど、本と向き合っています。

そして、時々

まあちゃは、その本を 声を出して  読み上げてます。

 

 

2002.09.01