歌 声

 

二個のスピーカーでは飽き足らなくて、

スピーカーが、四個になり、五個になり、六個にもなって

前後左右のスピーカーに囲まれて

音楽を聴いていたのは、

もう、十数年も前のことだわ。

 

音は、ある程度のところで妥協しなくては・・

そう想いながら、

アンプだ、チュウナーだと買い揃え、大音響の中で、

色々な曲を聴いていたのね。

 

そして、

挙句の果ては、カラオケ・・・三昧。

お友達を呼んで、ライトをほの暗くして、

ワインやお酒を飲みながら、

楽しいひと時を過ごしていたことがあったわ。

歌いながら、テープに録音したり。

よくまあ、近所から苦情が来なかったと思うのね。

 

けれど

11年前に

左手さんが倒れてからは、

アンプもチューナーもスピーカーも

ひとり立ちした息子の部屋へと移動していって、

ひとつ消え、ふたつ消えて・・・・。

音響機器類は、

いつしか、ラジカセに、姿を変えてしまっていたのです。

 

そして、

なぜか 今 ここで、 

突然、 思い立ったのです。

また、大音響の中で、ガンガンと、何でもいいから、

音楽を聴きたい、

周りの全ての雑音から遠のいて、

音の世界へ入り込んでいきたくなってしまったのです。

そして、デッキ・チューナー等々を

秋葉原まで出かけ買い込んだのです。

無駄な出費かな? と想いつつ

買ってしまった!!

 

帰宅しても、左手さんは、

二階から降りてこない

だから

部屋に、デーンと置かれたスピーカーから、

一番最初に、流したのは、

左手さんのバリトンの声。

言葉を失う前の左手さんの歌。

ラジカセからの音よりも、迫力があって・・・。

 

こんなに、滑らかに声高々と歌っていたんだなあ・・・。

そう想いながら、

ボリュームを上げて、階段をのぼり

一番上の段から、部屋の方をそっと伺うと

「あっあれれれ、ああああ」なんて言って

肩を大きく揺らしながら、部屋から出てきたのです。

 

下の部屋に来た左手さんは、

一番いい位置に陣取って、

背中を丸め、足元を見つめて

40代半ばの自分の声に

ジット・・・聴き入ったのね。

この、買い物は、高くなかったな。。。そう思った。

今ね、

【懐かしのスクリーンテーマベストヒット】が流れています。

 

2002.10.04