無力


こんなに心が重たいときは、
重たいことを書き出せばいいのだろう。
自分が無力だと想った。
時には、してあげたくとも
何もしてあげられないことがある
そんなときは自分の無力さをつくづくと感じる。

一昨日の夜。
夕食の支度をしていたら、ピンポンが鳴った。
息子が、顔をシカメテ「お客」とひと言言った。

玄関には、
やせ衰えたまるで浮浪者のような彼女がいた。
相変わらす体が臭い。
何日もお風呂へは入っていないようだった。
彼女と縁が切れて、7ヶ月経ったのに・・・・。
私の前には、姿など現せないはずなのに、
ションボリと玄関にいた。
いろいろお世話になったけれど、
千葉へ帰りますと言う、
千葉には、彼女の家がある
その家も荒れ放題の家。
借金取りに追われ
帰りたくとも帰れなかった家だ。
その家に帰るという。
借金取りに現在の居所を見つけられ嫌がらせをされ、
やっと得た職業も離れざるを得なかったという。
何日も何日も電気を止められた暗い家にいたという、。
食料もなく
お水で過ごしていた、
暗い中に居たら・・・。
もう、生きている張り合いがなくなって

生きている意味がなくなってしまって
死ぬしかないと・・・・
この間
自殺を企てた・・・・・。
死ねると想ったのに
楽になれると思ったのに

助けられてしまった・・・・。

私は、
思わず、息を吐き出して、
深いため息をついた

目の奥が熱くなり涙がポトリ落ちた。
気が付いたら、臭いと想った彼女を
ギュッと抱きしめていた。
背中をさすりながら
何でもっと早く来なかったの?
何回も来ました、
灯りをずっと見てた日もありました。
でも入っていけなかった。
そう言いながら
彼女は泣き出した。

私は彼女に言った。
「あがって一緒にご飯を食べようよ・・・・ねっ」
お腹の空き過ぎていただろう彼女は
少し遠慮はしたものの
「はい、すみません」と返事をした。

夫も息子も私たちの会話が聞こえていたらしく
「どうぞ」と笑顔で言ってくれた。

ご飯を食べながら
強く生きて欲しい
踏ん張って生きて欲しい
生きていれば笑う日もある
どうか、
死ぬなんて考えないで・・・・と
私は言ったけれど、

自分の言葉が空回りして
言っているそばから
自分の言葉なのに空虚に感じられ
心の中に黒いシコリが重く座り込んでいった。

どんな言葉も
今の彼女には
遠い日の言葉になってしまうと想った。
今の彼女は
今日の糧が獲られたことが
安堵を得、幸せ・・・なのかもしれない。

千葉へ戻り
ラブホテルの清掃員
パチンコ屋・・・いろいろと
当たってみて収入を得て行く
生活に必要なお水は近所の公園から
汲んで来るという。

なんとも、痛ましい話だ。
子供の頃は、裕福な家庭でお嬢様で
育ったのに・・・・。
50代半ばも過ぎてこんな生活になるなんて
思ってもいなかったことだろう。

そして
語学力があるのに。。
それを、生かせないなんて、
なんともったいないことだろう。

人は、こうなってしまうと
身につけたものさえ生かす気力も
なくなってしまうのだろうか。

せめて
それが生かせたらと言ったら。。
そんなことより
今日をどう生きるかが切実なんですと
ため息を付きながら彼女は言った。

今日は何をしようかなあ
閑だなあ・・・そう思っている人もいるのに、
今日をどう生きるか・・・の言葉は
私の中に深く食い込んできた。

帰り際
「最後に、お会いできてよかった」そう言って、
彼女は、私が渡したわずかな食料を大事に抱え、
冷たい雨の降り始めた夜の闇の中へ
消えて行った。

いったい、私は彼女に何をしてあげられたのだろう。
何もしてあげられなかったじゃないか。
こんなとき
いったい何をしてあげられるのだろう。
死まで選んだ彼女の寂寥を
どうして救えるだろう。

彼女が
私を
心のよりどころにしてくれた
それだけが
今の私を救ってくれている

彼女が強く生きていってくれることを
祈ることしか出来ない・・・

挫けずに
生きていって欲しい
私もちゃんと生きるから。
そう、最後に約束をした。

いつの日か、笑顔で。
元気ですという便りが来るだろう。
それを信じることだ。

2005.02.26