愛しい時

 

溢れかえった本の整理をしようと思い立って

整理を始めたのはいいけれど

処分したくとも出来ず

かといって、このまま元に戻せば、

収拾が付かなくなる。

数日間、本は部屋に広がったままだった。

部屋中に広がった本の中から

一冊を取り上げる・・・。

黄ばんだ本を開くと、最後のページに

1988.4月とあった。

あぁ、この本は母の病院へ行くときに

駅前の本屋で買った本だ。

もう、17年も前なのに、あの本屋で

本を買い込んでいる

自分の姿が浮かんできた。

あの時、母は生きていた。

そして、この本に触った。

母の匂いがするわけでは無いのに。

本を鼻に近づけて、そっと、嗅いでみる、

古びた紙の匂いが鼻腔を付いてきただけ・・・・。

もしも、

年月を書き込んでいなかったら、

母のことも思い出さずに居ただろう。

けれど あの日の

母の匂い

窓から差し込む春の光

母の声・・・・・が

鮮明によみがえった。

 

はるか昔の記憶は、音と光と匂いを伴って

私の前に現れた。

「桜、綺麗に咲いているね、来年も見られるかな」

「うん、きれいだね、来年は桜の下でお花見しよ」

桜を見たいといったのに。。。

母は、その年の秋の始めに旅立ってしまった。

処分対象の本を手にして、

束の間、母と会えた。

淡い淡い感傷に浸った愛しい時間。

やはり、この本は大事に取っておこう・・・・。

 

2005.04.26