遺影

 

先日、院長が亡くなった医院は、四階建ての

医療ビルの中にあったのね、

まあちゃは、この四階の歯医者にも掛かっていたわ。

先日、歯医者へ行こうとビルに入った、

左側をみたら、涙が出るから、医院のドアは見ない・・・、

そう決めていたのに、ビルに入った途端に、

左側のドアを見てしまった。

そこには、達筆な筆文字で、

院長、急逝のため閉院します。患者さ様には、

ご迷惑をお掛けし誠に申し訳ございません。

9日まで、相談室を設けておりますので、

ご相談お待ちしております。

そう、書かれていたわ。

「あっ先生に会える」そう思ったのね。

写真でもいい。先生に会いたい・・・そう思ったのです。

だから、翌日、花束を抱えて、医院を訪れました。

待合室のソファーは隅のほうに押しやられて、

窓にはカーテンが引かれて、

ダンボール箱がいくつも置いてあった。

看護士長さんが、

「こっちに先生がいるから会ってやってね」と言ったのです。

懐かしい、診察室へ入っていったら、

何時も先生が座っていた、

椅子が寂しそうに此方を向いていたわ。

机の上にはもいつものように縫いぐるみもあって、

椅子に、ふんぞりかえって、ニコニコと笑っている先生がいた、

額の中から「今日はどうしたの?」と声が聞こえたようだったわ。

遺影に向かって手を合わせて、

「五年間本当にお世話になりました」と深く頭を下げました、

その途端に涙がポロポロとこぼれてしまったのです、

そばにいた看護士長さんは、もう涙も枯れ果てたみたいだった。

「この間の最後の処方箋の代金は要りません、

もう、レジが打てないから徴収できないのよね

だから、最後の先生からのプレゼントと思ってね」

と言ったのです。

一ヶ月前の、この診察室、そして待合室には多くの人がいて

診察の順番を待っていたのよね。

この医院にいた、スタッフも職を失ってしまったことになるわ。

たった一人の死が、多くの人の生活を変えてしまった。

でも

髭先生のことずっと忘れないわ。

手渡された今までの診察経過

検査結果の書かれた封筒を渡されたけど、

さて、どこの

医療機関へいこう・・・・。